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 04 - - - “素敵の国のアリス”
                      (from “SuNSeT and NiGHTFaLL”)


登校中にアリスにあった。彼女はビートルズのツイスト・アンド・シャウトを歌いながら歩いている。私の姿を見つけるなり「おはよー」と言った彼女の左手にはズブロッカの瓶が握られていた。「朝からお酒はよくないと思うよ」「少しだけだよ。脳味噌にズブロッカが染み渡る感覚ってさ、朝が一番イイの」

アリスはわたしが高校に入って一番最初に話した人だった。入学式に遅刻して体育館の端っこで体育座りをさせられていた私はふてくされてツルゲーネフを読んでいた。たしか“はつ恋”だった気がする。式も終わろうかという時、私よりももっと圧倒的な遅刻をしてきて隣に座らされたのがアリスだった。ルーズソックスでミニスカートの少女は床にあぐらをかいて座り、髪の毛をぐりんぐりんといじりはじめた。そんな彼女が「それってさ、ひどい話だよね。はつ恋は失敗に終わった方が人生には勝てるなんてよく言うけれど、それにしたって、ねえ。ロシア文学は繊細で情熱的でクレイジーフォーユーだから好きだよ」なんて言い出すのですごく驚いた。それからクラスは別になったけれど、なぜか私たちはよく話すようになった。

彼女のことをアリスという名前で呼んでいるのは私だけだ。他のみんなが彼女を雨宮さんと呼んでいるのを聞くととても違和感を覚える。私の中ではアリスと雨宮さんは別の人間だ。私はアリスは好きだけれど、雨宮さんはあまり好きではない。

雨宮さんは人気者だ。雨宮さんはとても可愛いし、よく喋るし、真面目な校風のウチの学校では、見た目をはじめとして色々と特異な存在だ。先生達からはよく思われていない部分も多少はあるだろうが、成績は良い。男の子にも女の子にも好かれる私たちの学年の中心的な、目立つ人物。でも雨宮さんは私には好かれていない。私が好きなのはアリスだ。先生もクラスメイトも知らない、ロシア文学を読んで愛の繊細さと壮大さと切なさにそっと触れるアリス。そんな彼女を誰が想像するだろう? アリスは私にだけその存在を教えてくれる。誰もアリスを知らない。私以外、誰も。

アリスのことを考えながらドストエフスキーを読んでいるうちに、今日の授業は終わってしまった。