マチダくんは、揺らぐ。
それは古典の授業中の出来事で、ふくよかでお年を召された女性の先生が教壇でサ行変格活用について説明している時に起きたのだった。
マチダくんが、揺らいでいた。
後ろからぼうっと眺めているだけの私には、彼が寝ているのか起きているのかどっちなのかを知ることはできない。できれば知らないでいた方がいい。緩やかさと激しさを持ったその動きは退屈な授業の中で私に素敵な刺激を与えてくれる。
マチダくんは、揺らぎつづける。
彼の髪の毛がぐるぐると回ってもとの所に戻ってくる。揺れる彼の首が刻むリズムはどこまでも変則的だ。私の右手のシャーペンはもうずっと前からノートを取ることをやめている。
マチダくんは、揺らぎをやめない。
私は知っている。彼の机の上には表紙に“古典T”なんて書かれた教科書なんてなくて、代わりに坂口安吾の堕落論が広げられている。堕落しない人間なんていない。問題はどう落ちていくかだ。なんて活字の上で、彼の頭はゆらゆらと揺れるのだ。
マチダくんは、揺らぎだ。