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 09 - - -  “Noa Noa”
     (from “SuNSet and NiGHTFaLL”)


マチダくんと私の共通項。誰もいない美術準備室。秘密めいた匂いのする部屋で、私とマチダくんは二人きりなのだ。

マチダくんが私と同じ美術部だということを知ったのは、ほんの二週間前。彼が始めてこの部屋にやって来た時だった。

「ねえ、マチダくんって美術部だったんだ」

ここに誰もいないことを期待していた表情のマチダくんに声をかける。少しだけ哀しい気持ちが胸に流れ込んできたけれど、すぐに元に戻った。大丈夫だ。

「今日はじめてここに来たよ。なんだか絵が描きたくなったんだ」「中学校とかでさ、絵を描いてたの」「ううん。何もやったことないよ」

会話は途切れ、二人は沈黙という名前の風景に溶け込む。マチダくんは静かに部屋を見回し、私はそんな彼をじっと見つめる。マチダくんはふと私を見た。

「ねえ、その絵は、栗原さんが描いたの」

「え、ああ、うん」

私の後ろのキャンバスには、陰鬱に燃える青で塗りたくられた花が咲いていた。

「まだ途中なんだ。そんなに大したものじゃないから、見ないでよ」

この時は、自分の作品を見られることが妙に恥ずかしかった。それは作品が未完成だからか、相手がマチダくんだからか、それはわからない。

「素敵な絵だと思うよ。絵のことなんてぼくにはよくわからないけど」

「ありがとう」

そうして私とマチダくんの、週に一度の部活がはじまった。

美術部としての活動日は月水金の三日なのだけれど、マチダくんは月曜日だけしか顔を見せない。他の部員が広い美術室で水彩絵の具をいじっている時に、私は準備室で油彩を、マチダくんはぼーっとしている。

彼いわく、絵は描きたいけれど、ぼーっとすることの方が今は大事に思える、そうだ。