「金曜の放課後、アリスと夕暮れに行くよ」
いつものように玄関で読書をしているベンジャミンにそう告げた。読んでいたのは澁澤龍彦の<夢の宇宙誌>という本で、丁度その中の両性具有について書かれた部分を読んでいるようだった。
「本気だったんだな。いいか。俺はやめとけって言ったぜ。ちゃんと忠告したんだ。お友達なんかを夕暮れに連れ込むのはよしとけって、ちゃんと」
言葉に色はなかった。哀しみも、哀れみも。
「どうしてそんなに、誰かを夕暮れに誘うことを嫌うの?」
ベンジャミンはにゃぁと鳴いた。ベンジャミンが普通の猫のように鳴くのを久しぶりに聞いたような気がする。それっきり何も言わなかった。頁もめくらなかった。何か考えている様子だったが、答える意思はないようだった。
「じゃあ質問を変えるよ。どうしてそんなに夕暮れに詳しいの?」
猫の首がぐら、と揺れた。
「にゃ、ぉ」
それ以上、猫は何も言わなかった。私は違和感を覚えながらも、玄関を去った。